二重国籍

エルガー二重国籍ってなによ?」

ボイスはお姉言葉で尋ねた。ボイスは銀座のクラブのママの息子と親しかった。

「詳しいことはわからないけど、日本の政界では国籍単一の原則があるらしい。二重国籍とは何かという質問の答えにはなっていないけど、よしんばそうだとすると経歴問題になりかねない」

ボイスが言葉を継いだ。

「世の中にごまんといる経歴詐称をする輩に数えられようとしているわけだね、蓮舫が」

エルガーは肩をすくめた。この風見鶏の平和主義者は、急所を他人に任せるようにしていた。おかげで何かにつけて中途半端な人だという不名誉な評価に甘んじていた。

ボイスは不満そうに続けた。

「それは僕が中国地方に住んでいるから中国人だと言われる類いの不可抗力というか事故と違うかな。蓮舫という名前を聞いて、中国とか台湾を連想しない人はいなくね?」

エルガーは苦笑した。

「君は中国地方に住んでいることをよっぽど腹に据えかねているのかね?つまりそういうことだよ。わたしがここにいて何が悪い?答えはイエスでありノーだ。そこにいることはかまわない。しかし然るべき規範を守ってもらう必要がある。その中には五月蝿い小言も含まれる。もともと建て付けのよくない家の一つ屋根の下にいるようなものだからね」

ボイスはことりとグラスを置いて、ふっと溜め息をついた。